太陽が東へ沈むまで

毎日新しいこと発見。ネガティビスト脱却宣言。好きなものは全部繋がっていくと信じている凡社会人1年目がお送りします。

若気の至りで空き缶を漁っていた日々

3年ぶりにこのブログの存在を思い出し、嗚呼やはり三日坊主だこの手の物は向いてない、ネットのゴミを産み出してしまったと自責の念に駆られているところ。

 

ツイッターという気軽に書けて気軽に読めるプラットフォームがある以上、少し身構えて書こうとするブログは性に合わない、というか合わなくなったクソ脳ミソの成れの果て。中学生の頃は毎日ブログの為だけに生きてきたような人間だったのに。必死のパッチでネタ集めて投稿する情熱だけは未来の俺も驚いている。

 

さて、そんなことはどうでもいい。毎日ふと思い出す過去の思い出がたくさんある。ツイッターで書くとなるとどうしても140字に収めようとするあまりダイジェスト版みたくなる。2分でわかる昔話、みたいに端折ってしまっては良さが伝わらない。だからブログに書いてみようと思い至ったわけである。オチは特にない。いいこと書こうとするつもりもない。事実を淡々と。

 

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あれは中学2年の頃だったか。2008年。俺と2人の幼馴染みがいた。

ひとりは、普段あまり自分を主張しないがたまのイキリがどでかいタイプで、今思えば「ひとりよりは一緒にいる方がマシじゃね」という打算もしていたのかもしれない。何考えてるかわからん。ここでは「無」と呼ぶことにする。

もうひとりは、今で言う陽キャで明るくて人を笑わせるのが好きなムードメーカーのチビ。「チビ」と呼ぶ。

ちなみに2人ともアニメ好きだった。当時はけいおん!とある魔術の禁書目録がピークの時ではなかろうか。俺は全然その方向へ行かなかった。勧められて少し読んどきゃ話のタネになるか、くらいの扱い。ん?俺の方が打算的かもしれん。

まあそんなどこでどう繋がったか分からない明らかに血筋の違う3人組で同じ部活に入り、片桐はいり、ある夏の出来事に至るわけです。

 

ひと夏の思い出。それは空き缶を漁ること。夏休み、惰性で続けている部活終わり、或いは部活サボり、我々はコカコーラのシール集めに奔走する日々が始まった。

 

当時、コカコーラシールを集めるとiTunesで曲が無料ダウンロード出来るというキャンペーンが行われていた。調べたら、当時のニュース記事を見つけた。

http://ascii.jp/elem/000/000/050/50855/

(うわー、懐かしい。このサイトデザイン覚えてる。リップスライム活動休止で思い出した訳ではないのに、何のタイミングなんだ。)

 

ガキからしたら、

「無料ダウンロード」

てのはレジェンドワードなんですよ。美しい響き。コンチェルト。金のない俺たちでも無料で何かを得られるなんて、しかも体験版やサンプルではなく、モノホンを。合法で。やば。

 

しかしそんな頭の悪いガキでもすぐに気づく。無料ダウンロードのために、コーラを買う必要がある。コーラを大量に買う財力はない。飲む気力もない。でも好きなだけ音楽を手に入れたい。でも買えない。でもシール欲しい。でも、でも、でも、………。

 

 

「自販機のゴミ箱に空き缶いっぱいあるんじゃない?」

 

 

無が言った。何考えてるかわからん無が言った。もともとキャンペーンを知り俺とチビに話を持ちかけたのは無だった。その無が言った。

 

そうなると話は早い。放課後、チャリで帰る道中の自販機を片っ端からマークした。

面白いもので、人通りの少ない場所の自販機ゴミは2日に1回漁ろうとか、あそこの自販機ゴミはコカコーラシール付きの空き缶が多いとか、いろんな傾向や特徴が蓄積される。この情報を3人で共有していった。今のところ人生で一番無駄な知識であった。

 

夏休みということもあり、部活帰りの時間はたっぷりあった。昼に終わると夕方まで自販機回りをすることもあった。時には休日返上で、1日中シール集め。貴重な夏休みの本当の休みを何日か無駄にした。が、シールを見つけた分だけ喜びを感じるのだ。何を言われてもシールを集め続ける。そんな確固たる意志が3人をゴミ箱に向かわせていた。

 

このプロジェクトは3人しか知らない極秘事項だった。言うなればプロ乞食だ。持ち帰るのはシールだけだから、隠す場所も容易に確保できる。サイトでコードを入力したら捨てればいい。

これを思いついた奴は誰だ。無だ。

恥など気にせず空き缶をガチャガチャ漁る度胸のあるメンタリストは誰だ。チビだ。

周りに人がいないか監視し、Stop & Goを指示していたのは誰だ。俺だ。

それぞれが役割を果たし、まるで完全犯罪をしたかのような達成感と優越感に包まれていた。

 

夏休みの間、すなわちキャンペーン期間中、俺と無とチビは校区内のありとあらゆる自販機のゴミを漁り、そのいっときの恥と引き換えに大量のコカコーラシールを手に入れることに成功した。

が、俺は1枚も貰ってないことを思い出した。音楽に興味がなかったのか、友達と一緒に帰るついでだからと無邪気に無欲の仏野郎だったのか、とにかく漁るだけ漁って全て無に渡していた。

 

無は私利私欲の権化のような奴であった。ジャイアンのように態度に出すことはないが、剛田武以上の狡猾さを内に秘めていたように思う。裏の顔を一切出さないのがタチが悪い。

 

しかし、幼馴染みとそこら中の空き缶を漁って乞食バンザイ青春の夏という特別で貴重な経験ができたから特に気にはしない。放課後の日課としてやっていた美しい思い出だ。

 

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「空き缶を漁る」しか記憶にない夏休みも終わり少し経った頃。チビは部活を休んでいたので、無と2人で帰った。コカコーラシールのキャンペーンは既に終わっていたが、無は無頼のコーラ好きでもある。学校の規則で帰りの飲食物購入は禁止されていたが、無は自販機を見つけると「ジュース買おうや」とチャリを停めた。俺も「ええやん」と右に倣う。

2人とも小銭を手に取り、まずは無からチャリン、ボタンを押し、コーラガタン。その横で順番を待つ俺。その後ろから赤い車。窓から顔を出す男。学校の先生だ。「おいこらお前らちょっと待て」。

 

先生は学年でも特に厳しいことで知られていた。冷や汗が止まらない。品行方正で過ごしてきた学校生活もこれで終わりか。そう思った時、自分の手には小銭しかないことに気付いた。そうか、俺は買ってない。誤魔化せる。

 

先生は缶を持っていた無に「お前、ダメなことやと分かって買ったんか」と迫る。無は、これまでこの手の悪事を働きながらするりするりと教師の目をかいくぐってきた強者だったが、流石にこれは無理だと思ったようで、言い訳を諦めた。

先生は俺にも強い口調で問いかける。「お前も買うつもりやったんか」。待ってました、その質問。小銭を持つ手は握ったまま、「いや、買うつもりはなくて無にもやめるよう言ったんですが…」と返すと先生は納得した。真面目で良かったと思った瞬間である。

 

後日、先生から部に報告がなされ、いわゆる不祥事による部活動停止の決定が下された。1週間か2週間か記憶は定かではないが、とにかく部活動停止の原因を作った無は、大会の為真剣に練習している部員、先輩のヘイトを集めることになった。

 

コーラに助けられ、コーラに裏切られたのである。そして、俺のささやかな反抗でもある。