太陽が東へ沈むまで

毎日新しいこと発見。ネガティビスト脱却宣言。好きなものは全部繋がっていくと信じている凡社会人1年目がお送りします。

勝手に僻んで勝手に自滅する。

地元を離れ役者をしている知り合いがいる。高校時代、クラスが一緒だったというだけで、特に親しかった訳ではない。お互い会話をする場面ではどこかぎこちなかった。必要以上の会話をしても打ち解ける融解点など見つからないと分かっていた、それほど彼とは趣味嗜好がかけ離れていたから、顔見知りの関係で終わった。

 

大学に進学し、さほど連絡を取り合わない知り合いとはSNSで繋がることになる。近況が分かる場はそれだけだ。それだけ、でも恵まれている。彼もいくつかのサービスを利用していた。そこで俺は、役者として舞台に立っている様子を目にした。高校時代はそんなこと全然してなかったのに。何なら俺の方が少し演劇をやった時期があったから、共感と意外性を覚え、少し興奮した。連絡を取ろう。しかしいきなり、少ししか演劇をしてない奴が偉そうに「役者やってるんだ!」とメッセージを送るのは気味が悪いだろう、と気持ちを胸の奥にしまった。埃が被っている。

急に彼の名前と顔がこびりついて離れなくなる。劇団公演のリハーサルの画像、「明日は千穐楽です!」、打ち上げの様子、SNSに挙げられたものを見る度に親近感が湧いてきた。違う世界にいるようで、同じ景色を見ていたんだ。頑張れよ。心の中で応援していた。

 

ある日を境目に、彼は突然舞台を降りた、ようだった。何が原因かは分からない。公演の情報は途切れ、日常の様子を載せるようになった。映画をよく観に行っている、みたいだった。気に入ったものは熱弁し面白くなかったものにはノーコメント。分かりやすくて思わず笑ってしまう。それに、好きな傾向が同じだ。多分、現実に少し非現実が混ざった作品が好きなのだ。今度映画に関する投稿を見かけたらメッセージを送ろう。

そんなことをぼんやりと考えていたら、彼のプロフィール画像が変わっていることに気づいた。前まではいかにも役者やモデルといった趣きでシックな色合いの写真だったのが、マイクを手に持ちバンド名か何かをシルエットの横に添えた鮮やかで派手なものに。ここからは、それを見た瞬間に感じたことをいくつか並べる。ーーーん?バンド?音楽やんの?全然音楽のこと投稿したことなかったのに?急に?ボーカル?誘われた?うわ、舐めてるよ。音楽知らないくせに。

 

役者をしている君は応援するけど、生意気に素人が音楽やるなら応援しない。

 

こう、こんな、急に冷めた俺を、俺はまた冷めた目で見ていた。少しばかり音楽聴いてるからって、それがお前のテリトリーだと思うな。縄張りを荒らされたように感じるのはお前だけだよ。なーに自分の世界で自分で被害を作って困ってんだ。

 

そもそも。

 

何も知らないのだ。彼の情報はSNSの中でしか知り得ない。写真を変えた理由、彼のそこに至るまでの過程なぞ何も知らない。書かれたことだけ。それなのに、勝手に「音楽のことなど何も分からないくせに」と断定し、嫉妬している。考えてみれば、高校時代にも面と向かって何が好きか聞いたことはなかった。聞かずして趣味嗜好が合わないと決めつけ距離を置いていたのだ。出会いにはタイミングもある。そして偶然であろうと自らの働きかけで必然にすることも出来る。ところが何の一歩も進んでいない俺は、何を批判できる?

 

一方的な受け取りは恐ろしい。今、これを書きながら自身の傲慢さと過ちをどうにか認めようとしている。